量子情報関東Student Chapter
第9回Student Chapter講演会詳細
- 開催時間: 13:40-15:10
- 開催場所: 工学部6号館 セミナー室A
講演1 13:40-14:10
- 講演題目: 半導体低次元電子系におけるコヒーレント状態の制御 (講演資料)
- 講演者: 山本倫久 (東京大学 工学系研究科 物理工学専攻 樽茶・大岩研究室 助教)
- 講演要旨:
量子サイバネティクスは、コヒーレント状態の制御、検出の研究を基に、それを量子計算などの新規量子情報操作技術へと活用することを目標として平成21年度に発足した。この量子サイバネティクスの活動の一環として、我々は、半導体ナノ集積構造における量子状態制御、観測、伝送に関する研究を行っている。本講演では、半導体中の電子の量子力学的な振る舞いを紹介し、そのコヒーレントな状態制御に基づいた量子情報素子の設計について述べる。
講演2 14:10-14:40
- 講演題目: レーザー冷却と光格子時計 (講演資料)
- 講演者: 高野哲至 (東京大学 工学系研究科 物理工学専攻 香取研究室 博士研究員)
- 講演要旨:
本研究室では、従来のマイクロ波時計の性能を超える時計として「光格子時計」を提案し、その有効性の実証実験を行ってきた。光格子時計では、魔法波長と呼ばれる特殊な波長で格子状ポテンシャルを形成することにより、余分な摂動を与えずに多数個の原子を捕獲し、遷移周波数の観測を行う。今回の見学では、既に稼働している3台の光格子時計などを紹介するので、講演ではその基礎知識となる、光格子時計・レーザー冷却の原理や装置の概要などについて述べる。
講演3 14:40-15:10
- 講演題目: 光の量子状態の生成と操作 (講演資料)
- 講演者: 米澤英宏 (東京大学 工学系研究科 物理工学専攻 古澤・米澤研究室 グローバルCOE特任講師)
- 講演要旨:
古澤研究室の最も基本的なテーマはスクイ―ズド光を用いた量子テレポーテーション実験である。近年はその拡張として様々な光の量子状態の生成・操作に関する実験を行っている。例えば、スクイ―ズド光を用いてクラスター状態と呼ばれる量子エンタングルメントを生成し、それを用いた簡単な量子状態操作を実現している。また、スクイ―ズド光が偶数光子状態からなることを利用し、光子を引き去って(検出して)単一光子状態を生成する実験なども行っている。本講演では、これら最近の実験などについて説明する。
第9回Student Chapterポスター発表詳細
- 開催時間: 17:30-19:30
- 開催場所: 工学部6号館 セミナー室A
発表一覧
- タイトル: 非ガウス型状態の量子テレポーテーション
- 発表者: 武田 俊太郎 (東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 古澤研究室 M1)
- アブストラクト:
スクイーズド光から1光子除去することによって、シュレディンガーの子猫状態と呼ばれる非ガウス型状態が生成できる。今回はこの状態を量子テレポーテーションする実験について紹介する。
- タイトル: アダプティブホモダイン測定による位相スクイーズド光の位相推定の研究
- 発表者: 中根 大輔 (東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 古澤研究室 M2)
- アブストラクト:
アダプティブホモダイン測定はホモダイン測定とフィードバックを組み合わせたもので、被測定光がもともと持つ量子的な位相ノイズの精度で光の位相を推定することができる。当日はこの実験結果について報告する。
- タイトル: Quantum State Engineering using Single Nuclear Spin Qubit of Optically Manipulated Ytterbium Atom
- 発表者: 野口 篤史 (東京工業大学 大学院理工学研究科 物性物理学専攻 上妻研究室 M2)
- アブストラクト:
中性原子を用いた多体のクラスター状態を用いたone-way quantum computingが注目を浴びている。その実現へは、高効率の測定と長いコヒーレンス時間とが必要となる。そこで我々は、cavity QEDを使い、2D光格子にトラップされた単一中性原子の核スピンに対する高効率(>0.98) な射影測定を実現した。また振動磁場による核スピンのNMRを用いて核スピンの二軸回転を誘起し、任意の核スピン状態の準備とその評価が可能になった。最後にそのコヒーレンス時間を評価し、横緩和時間0.1秒・縦緩和時間0.5秒と長いものを得ることができた。これらの値からは、one-way quantum computerの演算回数として数百回程度を期待することができる。
- タイトル: Electrical control of spin-orbit interaction in self-assembled InAs quantum dots
- 発表者: 金井 康 (東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 樽茶研究室 D1)
- アブストラクト:
Spin-orbit interaction (SOI) mixes orbital and spin states, thus providing a mechanism for the coupling of electron spin to electron field. For this reason SO coupling is an attractive route for spintronic applications and quantum information process elements. In quantum well structures the SOI is controlled with electrical gating, which alters the asymmetry of the well [1]. In quantum dots (QDs), we previously detected SOI and evaluate SOI energy (ΔSOI ~ 0.1meV) in a single self-assembled (SA) InAs QDs known as strong SOI material. Here, we will report the tuning of SOI in a single SA InAs QD. Devices are fabricated from single SA InAs QDs directly connected with source and drain electrodes and electrically gated with both a backgate and a sidegate electrode. We focus on a degenerate point of two orbital states with opposite spin. We find a splitting of the Kondo zero-bias conductance anomaly and inelastic co-tunneling by an exited state. The splitting indicates hybridization through SOI and the size of which is proportional to ΔSOI. The sidegate electrode anisotropically changes the potential in the quantum dot and tunes the orbital states altering the SOI hybridization. We find that through manipulation of the sidegate and the backgate, ΔSOI may be altered over wide range demonstrating electrical control of the SOI.
- タイトル: Sr原子の中赤外領域の遷移を用いた研究
- 発表者: 橋口 幸治 (東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 香取研究室 D1)
- アブストラクト:
ストロンチウム原子の5s5p3P2-5s4d3D3間の遷移波長は約2.9μmと他の同類原子と比べても非常に長い。この中赤外領域の遷移を用いた応用を目指して研究を行っている。応用としては、まず、隣合う原子の双極子双極子相互作用を用いた量子ゲートの生成である。相互作用距離が長いため、原子間距離を長くすることができるというメリットがある。原子に個別にアクセスすることが容易になり、将来の量子エンタングルメント生成への可能性が広がる。また、遷移波長が長いため、対応する反跳限界温度(レーザー冷却における冷却限界温度の一種)が非常に低い(13nK)。そのため、レーザー冷却のみでnK オーダーの極低温原子を生成できる。数msで冷却できるため、安定度の高い冷却原子源としての応用が期待できる。
- タイトル: Ramsey interferometry and geometric operation with a sodium Bose-Einstein condensate using two-photon stimulated Raman transitions
- 発表者: 今井 弘光 (東京理科大学 大学院理工学研究科 物理学専攻 D3)
- アブストラクト:
我々は、ナトリウムボースアインシュタイン凝縮体(以下、BEC)を用いた幾何学的位相操作による堅牢な量子演算に向けて研究を進めている。今回、解放されたBECに10ms分けられた2本の2光子誘導ラマンπ/2パルスを作用させることにより、ラムゼー干渉計(周波数分解能100Hz)を構成した。また、アンサンブルの量子ビットに幾何学的位相操作を行いブロッホベクトルの3,2軸の回転をさせることができたので報告する。
- タイトル: SATURATED ABSORPTION SPECTROSCOPY OF ACETYLENE MOLECULES WITH AN OPTICAL NANO-FIBER
- 発表者: 滝口 雅人 (東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 久我研究室 D3)
- アブストラクト:
アセチレン分子は通信波長帯に豊富な吸収遷移を持ち、その帯域でのレーザー周波数安定化への応用に用いられている。しかしアセチレン分子は遷移強度が弱いため、これまで飽和吸収分光を行う際には光共振器やファイバーアンプを用いて光強度を増幅する必要があった。一方、今回我々は、光ファイバーの一部をサブミクロン程度まで細くした光ナノファイバーを用いることで、光強度を極限的に高め、非常に簡便な系でアセチレン分子の 1.5ミクロン帯の飽和吸収分光を行った。得られたラムディップの線幅から分子とエバネッセント光との相互作用領域について見積もったのでその詳細について報告する。
- タイトル: 光学格子から解放されたボース凝縮体列の干渉とその揺らぎ
- 発表者: 安藤 慧 (早稲田大学 大学院理工学部先進研究科 物理学及応用物理学専攻 湯浅研究室 M1)
- アブストラクト:
近年行われた独立なボース凝縮体列の干渉実験を議論する.凝縮体を構成する原子数が確定していて位相が定まっていない場合,多数回試行の重ね焼きに相当する1粒子分布に干渉縞は生じないが,同種粒子性に起因する多粒子相関(HBT効果)によってスナップショット上に干渉縞が生じるというアイデアを追究する.そのコントラストの情報を抽出する枠組みを準備し,1枚1枚の像に期待されるコントラストとその揺らぎを議論する.
- タイトル: Entanglement and Topology
- 発表者: 池田 康 (大阪大学 基礎工学研究科 井元・小芦研究室 M1)
- アブストラクト:
合成系の状態集合において互いにLOCCにより移りあえる2個の状態はエンタングルメントの観点から同等と思える。この同値関係により構成された商集合はエンタングルメントと1対1に対応すると考えることは自然である。2体の純粋状態の場合にこの商集合に導入される自然な位相を求めてみた。証明と合わせて紹介する。
- タイトル: 補助系に対する観測とフィードバックの繰り返しによる2量子ビット間エンタングルメント生成
- 発表者: 奥出 淳也 (早稲田大学 大学院先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻 湯浅研究室 M1)
- アブストラクト:
2量子ビット間にエンタングルメントを生成する方法を提案する.2量子ビットそれぞれと相互作用する補助系を導入し,それに対して観測とその結果に応じたフィードバックを繰り返すと,対象とする2量子ビット系が任意の初期状態から最大エンタングル状態へと確率1で導かれる.その終状態への収束は,エルゴード写像に関する数学的定理を利用して証明することができる.エルゴード写像が量子系制御に有用となる興味深い例である.
- タイトル: Robustness of perfect entanglers
- 発表者: 高口 大樹 (総合研究大学院大学 根本研究室M2)
- アブストラクト:
一般に「ベル状態」と呼ばれる2量子ビットの最大量子もつれ状態は、様々な量子情報処理技術において基礎的な資源として利用される。量子もつれのない純粋状態からベル状態を生成するためには、「perfect entangler」と呼ばれるユニタリ操作と、そのユニタリ操作に合わせた入力2量子ビットの状態の最適化が必要である。我々は最適化された入力状態の誤差が出力量子もつれに及ぼす影響について研究を行い、より誤差に対し頑強なperfect entanglerを明らかにした。
- タイトル: Aharonov-Bohm effect on trion and biexciton in type-II semiconductor quantum dot
- 発表者: 奥山 倫 (慶応義塾大学 大学院理工学研究科 基礎理工学専攻 江藤研究室 D1)
- アブストラクト:
ZnSeTeなどのタイプII半導体量子ドットにおいて、正孔はドットに強く束縛され、電子はドットのまわりに形成されたリング構造に拘束される。系に縦磁場を印加すると、電子はアハラノフ・ボーム(AB)因子を獲得するため、励起子の発光ピークのエネルギーは磁場の関数として振動する[1]。この現象は光学的AB効果と呼ばれている。一方、1次元リング上の2電子系は、クーロン斥力によってウィグナー分子を形成し、エネルギーの磁場振動の周期は、1電子系の周期の1/2倍となる[2]。タイプII量子ドットにおけるトリオンやバイエキシトンなどの複合粒子を構成する電子対は、ウィグナー分子を形成すると期待できる。我々はタイプII半導体量子ドットにおける複合粒子の磁場依存性を数値的に解析し、リング上のウィグナー分子の形成が、複合粒子の光学的AB 振動として観測できる可能性を示した。[1] I. R. Sellers et al. PRL 100 136405(2008)[2] S. Viefers et al. arXiv:cond-mat/0310064v1(2003)
- タイトル: Optimal local expansion of W states using linear optics and Fock states
- 発表者: 生田 力三 (大阪大学 大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 井元研究室 D2)
- アブストラクト:
We derive the maximum success probability of the circuits with passive linear optics for expanding an N-photon W state to an (N+n)-photon W state, by accessing only one photon of the initial W state and adding n photons in a Fock state. We show that the maximum success probability is achieved by a polarization-dependent beamsplitter and n-1 polarization-independent beamsplitters.
- タイトル: Information Thermodynamics
- 発表者: 沙川 貴大 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 上田研究室 D3)
- アブストラクト:
熱力学第二法則は、情報処理のプロセスには適用できないことが、19世紀以来「Maxwellのデーモンのパラドックス」と関連して指摘されてきた。我々は、量子情報処理過程にも適用できる形に熱力学第二法則を拡張した。その結果、量子情報処理に要するエネルギーコストの熱力学的な限界が明らかになった。この拡張第二法則は、情報量が(自由エネルギーなどの)熱力学量と同等に扱われる形になっており、情報熱力学の第二法則と呼びうるものになっている。我々の結果は、量子情報理論と非平衡統計力学を組み合わせることで導出された。
- タイトル: 分散型量子情報処理におけるエンタングルメント消費量:制御ユニタリ操作のときの下限
- 発表者: 添田 彬仁 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 村尾研究室 D3)
- アブストラクト:
量子情報では、離れた二者間で実行されるプロトコルが多々知られている(たとえば量子テレポーテーション)。これらのプロトコルで使われる量子操作は、それぞれの当事者が自分の手元にある量子系のみ操作しているため、局所操作(local operation)と呼ばれている。また、これらのプロトコルは、測定結果を伝えるために古典通信(classical communication)を用いており、総じてLOCC (Local Operation and Classical Communication)と呼ばれている。このLOCCは分散型量子計算などでも使われるため、LOCCで実行可能なことを理解することは重要であるが、LOCCを記述するためのパラメータの数が多いため、LOCCの解析は通常困難である。そのため、大局的(global)な量子操作をLOCCで実装するために必要なエンタングルメント量は、ほとんど求められてこなかった。本研究では、LOCCで制御ユニタリ操作を実装するために必要なエンタングルメントを初めて求めることに成功した。
- タイトル: A Generalized Model of m-level Quantum Teleportation
- 発表者: 田中 芳治 (東京理科大学 大学院理工学研究科 情報科学専攻 大矢研究室 D3)
- アブストラクト:
通常の量子テレポーテーションでは,送受信者間に最大エンタングルド状態を用意する必要がある.しかし,最大エンタングルド状態を実験的に生成することは難しい.我々は、Kossakowski とOhya による議論を基にして, 2 レベル状態を送信するモデルを提案した.我々のモデルでは,非最大エンタングルド状態を用いた完全テレポーテーションが可能である.本研究では,m(> 2) レベル状態を送信するモデルへの拡張を議論する.
- タイトル: Boosting up quantum key distribution by learning statistics of practical single-photon sources
- 発表者: 足立 頼俊 (大阪大学 大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 井元・小芦研究室 PD)
- アブストラクト:
量子鍵配送を実現するには様々な問題を克服しなければならず、最も研究が進んでいるBB84方式もその例外ではない。現実的な BB84方式の主な問題は、使用する装置の不備から生じる危険性(光子分岐盗聴など)への対策と、その実験系の簡潔さである。本ポスターでは、光子分岐盗聴への対策として知られたデコイ法を、一般的な疑似単一光子源においても簡単に利用できる方法を提案し、その安全性について議論する。