量子情報関東Student Chapter
第10回Student Chapterポスターセッション 発表要旨
- タイトル: 量子トモグラフィにおける測定器系の性能評価ー大偏差的視点から
- 発表者: 杉山 太香典 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 村尾研究室 D1)
- アブストラクト:
量子トモグラフィとは未知の量子的対象を完全に同定する手法の総称であり、量子情報処理実験において重要な役割を担っている。量子力学の確率的な性質を起因として量子トモグラフィの実験結果には統計誤差が含まれ、その定量的な評価が必要となる。一般に統計的推定問題において統計誤差の定量的評価法には危険関数と誤差確率の2つの手法がある。これまで、量子トモグラフィに適用可能な危険関数の解析法は知られていたが、誤差確率の解析法は知られていなかった。本発表では量子トモグラフィに適用可能な誤差確率の解析法を提案する。我々の提案する解析法により、量子トモグラフィで用いられる測定器系のより詳細な性能評価が可能となる。
- タイトル: 光子系W状態拡張実験
- 発表者: 田嶌 俊之 (大阪大学 大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 井元研究室 GCOE特任助教)
- アブストラクト:
多粒子系のエンタングルメントの中の代表的な状態の一つにW状態がある。このW状態はWeb構造を形成しているため、粒子の損失がある場合でも、残りの粒子間に強いエンタングルメントが残る。このW状態に対して、GHZ 状態やクラスター状態で可能であった一粒子に対する局所操作による拡張の可能性を研究してきた。W状態は直接操作をしない粒子の密度行列が拡張前と拡張後で異なるため確率1で拡張を行うことはできない。しかしながら、確率的な操作では拡張可能でありこれを行う線形光学素子を用いた方法を我々は提案した(Phys. Rev. A 77, 030302(R) (2008))。この拡張ゲートは2 個の50:50ビームスプリッターと2個の補助光子から構成され、N個のW状態をN+2個 のW状態に拡張する。本発表では、パラメトリック下方変換により2光子を、弱いコ ヒーレント光で2個の補助光子を準備し2光子W状態を4光子W状態に拡張する実証実験 を行ったので報告する。
- タイトル: 一次元横磁場中のXY模型における基底状態多体エンタングルメントの熱耐性の解析
- 発表者: 中田 芳史 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 村尾研究室 D1)
- アブストラクト:
近年、物理系におけるエンタングルメントの役割に注目が集まっているが、先行研究の多くは基底状態の二体エンタングルメントに着目した研究である。本ポスター発表では、基底状態の多体エンタングルメントに着目し、そのエンタングルメントの有限温度下での熱耐性を調べた。基底状態がエンタングルしている場合、熱平衡状態はある温度以上でseparable状態になるが、その温度の下限を「限界温度」と定義し、一次元横磁場中XY模型において計算した。その結果、1.「限界温度」は量子相図の特徴をうまく反映する、2.強磁場領域では熱平衡状態は高温でもエンタングルしている、という二つの結果を得た。
- タイトル: Aharonov-Bohm Effect on Wigner Molecule in Type-II Semiconductor Quantum Dot
- 発表者: 奥山 倫 (慶応義塾大学 大学院理工学研究科 基礎理工学専攻 江藤研究室 D1)
- アブストラクト:
The correlation effect on few electrons confined in type-II quantum dots (QD) is theoretically investigated. We propose a method of experimental observation of Wigner molecules by magnetoluminescence from trion and biexciton confined in the type-II QD.
- タイトル: クラスター状態を用いた一方向量子計算における量子もつれの測定結果非依存性
- 発表者: 佐々木 寿彦 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 筒井研究室 D2)
- アブストラクト:
クラスター状態を用いた一方向量子計算は測定によってエンタングルメントを消費しながら計算を進めていくモデルになっており、量子計算におけるエンタングルメントの役割を調べるモデルとして興味深い。の系におけるエンタングルメントの振る舞いを調べる単純な方法をして、測定によってどのようにエンタングルメントが変化していくのかを順次追っていくということが考えられるが、測定によって状態が分岐するため、考慮すべき状態が測定回数の指数関数として増えてしまい、解析が困難になるように思われる。本発表では、CNOT とROTから作られる回路については違う測定結果の中間状態が互いに局所ユニタリ変換で結びつくため、この困難が存在しないということを示す。
- タイトル: 集光アンテナと光学禁制励起の結合による高効率エネルギー凝集
- 発表者: 延広 篤志 (大阪府立大学 大学院工学研究科 電子・数物系専攻 電子物理工学分野 石原研究室 M1)
- アブストラクト:
ナノサイズのギャップを持つ金属構造体に特定の偏光を入射すると大きな局在場が生じる。この局在場は、ギャップ近傍に配置された分子や量子ドットと強結合する。分子の共鳴光を照射するとき、金属構造体による入射光の吸収が著しく抑制され、金属構造体で捉えた入射光のエネルギーを高効率に分子へ移動することが確認された。分子の光学禁制状態を利用することで、分子へのエネルギー凝集が可能となる。
- タイトル: 量子ドット中の荷電励起子分子からのカスケード発光
- 発表者: 白根昌之 (NECグリーンイノベーション研究所 主任研究員)
- アブストラクト:
半導体量子ドットは、単一光子光源や量子もつれ光源、光と電子系量子ビット間のインターフェースなど、量子情報処理に必要不可欠なデバイスへの応用が期待される。本発表では、量子ドット中の電子2個、正孔3個から構成される正荷電励起子分子を始状態とする段階的な2光子発生と、そのスピンダイナミクスについて報告する。
- タイトル: フィデリティ損失に基づいた純粋状態モデルのベイズ予測と情報幾何
- 発表者: 田中 冬彦 (科学技術振興機構 さきがけ数学領域 PD)
- アブストラクト:
古典ベイズ予測ではどのような事前分布を仮定しても最適な推定は統計モデルの凸包からははみでない。しかしながら、純粋状態からなる統計モデルでフィデリティ損失を取る場合には量子系特有の問題設定になっており最適な推定は、量子力学的な干渉の効果のため統計モデルの凸包からはみでる場合が存在する。任意の事前分布に対して最適解が必ず統計モデルの中に存在するという条件は、統計モデルの情報幾何学的な性質と密接に関連しており、本発表ではこれまでに得られた結果を紹介する。
- タイトル: 量子クラスター展開法による冷却原子気体の研究
- 発表者: 作道 直幸 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 上田研究室 D3)
- アブストラクト:
量子統計力学において,大分配関数の計算に通常用いられるのは,相互作用の強さをパラメータとした摂動展開である。電子気体を始めとした重要な物性系は相互作用が小さく,摂動展開が有効であった。しかし,束縛状態を作るほどの強い引力を実現できる冷却原子気体では,摂動展開は正当性を失い,新たな別の理論が必要になると考えられる。我々は,そのような理論の候補として,Lee,
Yangの量子クラスター展開法による大分配関数の計算に取り組んでいる。これは,量子気体の多体相関を,二体相互作用の効果と量子統計性の効果(量子相関)に分離して解析する方法である。二体相互作用の効果は,s波近似の下で束縛状態の寄与を厳密に取り入れたバイナリ核を用いて展開できるので,量子気体が分子を形成するような状況の解析に有効だと考えられる。ポスターでは,短距離相互作用する二成分フェルミ原子気体のBCS-BECクロスオーバーを例にこの方法について解説する。
- タイトル: 有限温度のショットノイズを用いた分数量子ホール系の統計因子の決定
- 発表者: 伊與田 英輝 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 加藤(岳)研究室 D2)
- アブストラクト:
分数量子ホール効果の端状態の低エネルギー励起は分数電荷を持つ準粒子によって記述される。分数電荷は十分低温のショットノイズ測定により確認されている。一方、この準粒子は分数統計に従うことも予言されているが、未だ測定されていない。本ポスターではメゾスコピック系における非平衡久保公式を用いて有限温度のショットノイズを定義・解析し、ラフリンの階層構造状態における統計因子の決定法を提案する。
- タイトル: 光子・電子スピンの量子メディア変換におけるプロセストモグラフィ測定
- 発表者: 稲垣 卓弘 (東北大学 工学研究科 電子工学専攻 枝松・小坂研究室 D2)
- アブストラクト:
光子と電子スピンのように, 性質の異なる量子メディア間での情報伝達は, 量子情報処理にとって重要である. これまで我々は, 光子の偏光状態から電子スピンの偏極状態へと, その重ね合わせ状態を含めた量子メディア変換を実現してきた. この量子メディア変換は, 入力を光子の偏光状態, 出力を電子スピンの偏極状態とする一種のシステムであると考えることができる. このシステムを定量的に評価するために, 出力された電子スピンの状態トモグラフィ測定を行い, 入出力間の忠実度を求める. さらに, 量子メディア変換における量子過程のプロセストモグラフィについて発表を行う.
- タイトル: 疑似位相整合による決定的周波数ビンエンタングル光子対の生成
- 発表者: 金田 文寛 (東北大学 電気通信研究所 枝松研究室 D2)
- アブストラクト:
周波数ビンエンタングルメントは十分に分離された2つの周波数モードでのエンタングルメントであり、最も単純な周波数エンタングルメントである。しかし、これまでの周波数ビンエンタングルメントの生成は周波数フィルタリングや干渉計等の複雑な光学系を用いて実現されており、直接的、決定的生成は困難であった。今回我々は2つの反転周期をもつ疑似位相整合素子と、偏光ビームスプリッタのみでこれの生成に成功したので報告する。得られた光子対の周波数ビンエンタングルメントは2光子干渉を用いた測定により、高いエンタングルメントを持つことが示された。
- タイトル: フィードバック制御による「情報-エネルギー変換」の実験的実現
- 発表者: 沙川 貴大 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 上田研究室 D3)
- アブストラクト:
ナノスケールの微小非平衡系に対してフィードバック制御を行うと、ある意味で情報を自由エネルギーに変換することができることが、約 80年前のSzilardによる思考実験によって理論的に知られてきた。我々の実験では、この「情報-エネルギー変換」を実現することに世界で初めて成功した。今回の実験は古典コロイド粒子を用いたものだが、超伝導キュービットや量子ドットにおける量子フィードバック制御の研究にも発展させていくことができると考えられる。
- タイトル: 結合ジョセフソン接合における協力的な巨視的量子トンネル現象
- 発表者: 知崎 陽一 (産業技術総合研究所 PD)
- アブストラクト:
キャパシティブに結合する2つのジョセフソン接合を考え、一方が有限電圧状態にスイッチしている状況を考える。この状況で、もう一方の接合の巨視的量子トンネル現象(MQT)について議論する。はじめに、2体問題であるこの系が周期的摂動のある1体問題に帰着できることを示し、WKB法を用いてMQT率を計算する。その結果MQT率が共鳴的に増大することがわかった。さらに共鳴点からずれた点においてもMQT率の増大がみられることがわかった。
- タイトル: ツリークラスターを用いたロストレラントな量子計算の解析
- 発表者: 熊谷 英敏 (大阪大学 大学院基礎工学研究科 井元研究室 D3)
- アブストラクト:
量子計算を行うためのモデルとしてクラスターを用いた一方向量子計算が提案され注目を浴びている。クラスター状態を構成する各キュービットを測定するだけで任意の量子計算を行うことができる。しかし現実には測定を確率1で行うことは難しい。これを解決する手段としてツリークラスターを用いた方法がVarnavaらによって提案された。本研究ではどのようなツリー構造を用いたクラスターを利用すれば効率的に量子計算を行えるかを議論する。
- タイトル: 産総研におけるSr光格子時計の開発の現状
- 発表者: 赤松 大輔 (産業技術総合研究所 研究員)
- アブストラクト:
産総研におけるSr光格子時計の開発の現状について紹介する。Zn:PPLN導波路を用いた2次高調波発生を利用することで、小型かつ安定な冷却用光源 (461nm)を開発した。また、リポンプレーザーの周波数安定化には光周波数ファイバーコムを利用した。これらのシステムにより2*10^7個の 88Sr原子を真空チャンバー中に磁気光学トラップすることに成功した。
- タイトル: 磁束量子ビットのラビ振動の緩和率測定による磁束ノイズの評価
- 発表者: 吉原 文樹 (理化学研究所 研究員)
- アブストラクト: 磁束量子ビットにおける磁束ノイズのスペクトル密度は、1 MHz付近で1/f型の周波数依存性を持つことが分かっている。一方、ラビ振動の緩和率はラビ周波数における磁束ノイズに依存すると考えられる。今回我々は、ラビ周波数が30 - 500 MHzの範囲でラビ振動の緩和率の測定を行い、高い周波数領域における磁束ノイズのスペクトル密度を評価した。